幻想曲Vampire

主に二次元

【アニサマ2017】Animelo Summer Live 2017 THE CARD 2日目感想(i☆Risのみ)

 聴き慣れたイントロが2万7千人を収容する会場に響くのはどこか不思議な感覚だった。

 デビュー曲「Color」(のイントロを使用した登場SE)は、これまでイヤホンから伝わる自分の鼓膜の中から、大きくとも武道館の会場までの広さでしか聴いたことがなかった。加えて、この曲を知っている者が半径10メートルの範囲では自分しかいないことにも違和感があった。
 あまねく3万人弱に届けられるべく発せられた音楽だが、自身の感覚だけでいえば、この世界で自分自身にしか聴こえていない天啓のようにすら思えた。孤独感と高揚とがコーヒーに垂らしたミルクのように渦となって脳裏を巡るのをすべてが終わったのちに認識したが、そのときはやがて登場する彼女らに応えんがために急ぎペンライトのオレンジを点けるのに必死だった。

 「We are i☆Ris!!!」
 「Color」のイントロに乗せて宣言されたのち、シンセの低音が鳴り、1曲目「§Rainbow」が幕を開ける。正直、予想の外の外だったため戸惑った。いや、本当は予想は可能であった。同日に出演する「KING of PRISM」の前身番組である『プリティーリズム レインボーライブ』の第2期EDであること。また、それを加味せずとも、当時を知らずともこの演出は映像で確かに目にしている。2013年8月25日。Animelo Summer Live 2013 FLAG NINE3日目。i☆Risがデビュー1年にも満たない時期に同じ舞台に初出演を果たしたとき。そのときの流れが目の前で再現されているという事実を認識し、そこに意味を見出す前に震えた。

 曲中の彼女らは、記憶にある映像より堂々としていた。ご新規向けに丁寧な煽りを入れずとも、この曲そのもので魅せるのだという気概があったように思えた。それは4年間の成長かもしれない。一種の開き直りかもしれない。これまで3度立ち続けたアニサマというステージへの信頼であったかもしれない。ただ、剥き出しのそれをぶつけられた自分は精一杯それに応えるしかないのだ。特に周囲に同志が見当たらない自分は、それを自発的行動で成さねばならなかった。ワンマンの時とは違う。誰かが先行して声を張り上げてくれる環境とは違う。世界にこれを聴くのが自身のみであるのなら、ほかでもない自分が、「だけど だってさ 強くなるのって ムヅカシイ」と歌う彼女(ら)にエールを送るのだ。そしてそれを知らぬ観客に知らしめねばならない。ぼくらが声を上げるのだ。ぼくだけではない、きみ以外のみんなでもない。きみが、ぼくらが喉をからして叫ぶに値するものがここにあるのだとふれて回るのだ。さぁ!

 「せーりーざーわー!ゆーうちゃん!ゆーうちゃん!ゆーうちゃん!ゆーうちゃん!」

その試みが実を結んだかは定かではない。所詮私は2万7千人のなかのひとりでしかない。中心に立って、天から見下ろして実際どうだったかなど知る由もない。ひとり空回った姿が衆目に晒され、打ち上げの話のタネのひとつになっただけかもしれない。
 私は生憎ステージ上の彼女らの表情を肉眼で確認出来る位置にいない。正面のスクリーン越しに仰ぎ見るだけだ。ただ、芹澤は力強く落ちサビへのファルセットを伸ばしていたし、そこに映る久保田の表情はプリズムの煌めきのごとく輝いていた。「こんな楽しいステージに立てて本当に幸せ」と後に語るとおり、「楽しい」という感情をありったけ表現して、おそらく彼女を初めて観るであろう観客たちに向けて、視線を振りまいていた。そこにはアニサマのゼネラルプロデューサーであるさいとーぴーが雑誌「Voice Brody」で2013年当時の彼女を評したような「歌うことに苦手意識を持っている」姿はもういなかった。

「§Rainbow」が終わり、続けてスクリーンに、暗転の中腕を頭の後ろで交差させるポーズをとる山北が映る。プリパラ第3期最終OP「Shining Star」だ。
 今回は、前回前々回のようなアニメ『プリパラ』の映像を使用した導入はない。これにネガティブな反応をもつ人もいるだろう(実際いた)。しかし、この曲はそれでいいのだ。
 ひとつはその歌詞が、振付が『プリパラ』その歴史を体現しているからだ。 

「キミがいればどんな夢もつかめるから」

冒頭で歌う言葉は同作品で主人公のらぁらが唱える「み~んなトモダチ み~んなアイドル」の精神の言語化であり、全編にわたってこれまで紡いできた物語と、その先に続く未来について語っている。
 また、2番明けの間奏の振り付けは最初のOP「Make it!」からこれまでのプリパラ楽曲の印象的な振り付けをらぁら&みれぃ~SoLaMiSMILE結成、Dressing Pafeの合流といったストーリーラインに沿って再構成したものだ。本作のMVがドラマ仕立てであり、振付ver.MVもまだ未公開であることから、これを知らないアニメ『プリパラ』ファンはまだ多いのではないかと思われる。フェスでの傾向として、花道ステージを含めた広い会場を使うことから、間奏のいままでの楽曲の振り付けは省略されるという危惧もあったが(アニメ紅白の際はほぼ省略ver.だったはず)、遠目から見る限りでも、ほぼ完全な状態でダンスに徹していたように見えた。
 また、「Shining Star」は、プリパラのOPのなかでもあまり「楽しさ」を全面に出さないシリアスな曲調をもつ楽曲のひとつだ。(ほかには「ブライトファンタジー」「Goin'on」があたる)前年までと同様の楽しさいっぱいなコンセプトのアニメからの導入で適切かは疑問である。
 なにより本人たちもインタビュー等で語っている通り、アニサマ出演時のアニメからの導入は一種『プリパラ』からの手助けであり後押しだ。『アイドルタイムプリパラ』で世代交代が進んでいるように、彼女らもアニサマにおいて、『プリパラ』がなくともひとつのアーティストとして確固とした姿でステージに立たなければならない。
 i☆RisがOPを担当しなくなり、物語としても次世代へとバトンを渡すことが明らかになってから思っていたことだが、i☆Risが『プリパラ』のメインでなくなることはさみしい。だが、それを嘆いてどうする。結局『プリパラ』が今後5年10年続くとは限らない。続いたとしてもいつまでも手元にあるわけではなかろう。そのとき、ずっと前から予想されてたそのときが今なんだ。『プリパラ』から離れてi☆Risが成立しませんというならそれはその程度のグループだったということだ。じゃあその後の答えはどこにある? 歌っている。「果てなき夢 はるかな道のまだ途中 ためらわないで笑いながら進もうよ」「キミの夢とみんなの夢 重なるとき ステキな奇跡がきっと世界に起きるよShining Star」
 ここは途中だ。旅のどこかだ。そう宣言して歌っている。そして私のではなく「キミの」「みんなの」夢があれば奇跡は起こせる。

 2曲目が終わり、ここでMCが挟まる。3rdアルバムの告知、本来ならここで初めて発表してリスオタ大爆発の流れであったが、前日にポロリしていたので新鮮味は薄れてしまっている。ただ、それを告げる時の山北の「風の噂でご存知の人もいるかもですが」という前置きには好感を抱いた。2nd Tourで導入された外国人警備員に対するファンの反応についての言及や、河口湖でのライブ中でSOLD OUTしなかったことに触れたことや、伝説となった武道館での所信表明など、山北はここぞという場面でも常に正直にストレートに言葉をつむぐ。だからこそリーダーにふさわしいと思う。
 さて、MCが入った時点でアニサマでは初の3曲枠での出演が確定していたので私は歓喜にうち震えていた。事前に3曲枠なら「Shining Star」「DIVE TO LIVE」「幻想曲WONDERLAND」と予想していた。なので、次は後者2曲のうちどちらかだろうと。山北が「切り札」と称した時点では「幻想曲WONDERLAND」と確信した。
 だがタイトルコールはまたも予想を外した。「イチズ」である。i☆Risの2nd singleであり、アニメ『ムシブギョー』のEDを飾った悲壮と決意に溢れたバラード。しかもシングルver.ではなく昨年の武道館で披露されたリアレンジver.だ。
 正直困惑した。この選曲でいいのか。確かに「イチズ」自体ライブで披露されることがあまりないレア曲であり、ここで聴けるのは単純に嬉しい。先に発表された3rdアルバムにもこのリアレンジver.の収録が決まっていることだし、武道館公演を目の当たりにしたプロデューサーの意向もあったかもしれない。しかしこの曲はプリパラではない。ともすればアニタイであるかすらここに集う大半の、万単位のお客は知らないだろう。本当にこのバラードで勝負を挑んでもよいのだろうか。挑戦的すぎるぞ。
 

「いつの日か今よりも強くなりたい」

 私はこのシングルが発売された当初の彼女らの状況を知らない。セールス的にも動員的にも微妙な時期で…という程度の伝聞はきくが、実際の空気感を詳細に知っているわけではない。なので、武道館でこの曲が披露されたときのメンバーの涙や表情にも、親身になってあげることができなかった。
 ただ、特にこの曲の歌詞は、i☆Risの当時の心境と強く結びついているものなのだろうとは想像がつく。
 ピアノメインのよりシンプルなアレンジとなったこの曲は聴いていてハモリがより強調されるようになっている。
茜屋や若井が歌唱力を存分に振るうサビの魅力はもとより、澁谷の上ハモ、山北の下ハモがさらに存在感を増す構成だ。芹澤や久保田の声も単体として響き渡るようになっている。まさに聴かせるi☆Ris。ただこわいのが、アップテンポの曲ならば観客のコールの多寡で支持がある程度みえる(逆に会場の温度も残酷なほど見えてしまう)が、このような完全に聴かせるバラードでは、観客の反応はそれぞれの心の中だ。それが正直とても不安だった。
 けれどそれは杞憂に終わったようである。終演後、ともに参戦した同僚からはこの曲について「イメージと違ってカッコよかった」との評を頂いた。さらにTwitterでざっと検索する限りでは、i☆Risをあまり知らない人の反応は概ね良いといっていい。これが本当に、おこがましいけれども自分の事のようにうれしかった。うれしいのと同時にこの曲で勝負を仕掛けた彼女らにあらためて敬意を抱いた。

総評:
今回はじめてアニサマi☆Risを観たが(アニサマ自体久々なのがお察しである)、本当に楽しかった。
セットリストも予想を外し、かつ期待以上のパフォーマンスだったし、画面越しではあるが、みんなのステージ衣装も綺麗で、クッソかわいかった。
今までの年との比較は円盤を待つが、例年よりも凄いステージという印象は消えることはないだろう。
ブログ内で言及していないが、その他のアーティストも飽きさせることなく、素晴らしいものだった。


 余談。fhanaの「青空のラプソディ」のダンサーとして後半に再登場したi☆Risとスフィア。fhanaのステージが終わっても壇上に残った彼女らは宝箱から魔女の帽子をみつけ、それぞれに書いてある文字のアナグラムを解く。すると「i☆Risphere」という文字が生まれ、コラボ楽曲の「おジャ魔女カーニバル」を披露される。
 この演目も大いに楽しんだ。Aメロの応答に「どーする?」「いーよね」と大声で叫ぶ。ただ、それ以降私が平静でいられなかったのは彼女ら10人がそれぞれサイドに控えたトロッコに乗り込み、アリーナを移動し始めたからだ。そのとき私がいたのはアリーナEブロックの上手端の席。アリーナといえどもステージ上の演者は遠く、人の頭でほとんど見えない位置であった。その状況下でもそれはそれとして楽しんではいたが、トロッコに乗ってまさに目が合う地点に、しかもこちら側に久保田が!もう今日イチのテンションで到着を待った。待った。しかし。

 トロッコは来なかった。
 おそらくCブロック辺りでトロッコは進路を左に変え、アリーナの中を突っ切るように折れた。愕然。落胆。テンションダウンMAX。いやでもしかし、でもしかし、希望は残されている。逆側を走行していた茜屋らがいるトロッコが入れ替わりで上手サイドに現れる。
「ひみちゃん!ひみちゃん!」
ありったけ声をあげた。だが、無慈悲。入れ替わりで上手に現れたトロッコはそのままステージへと戻ったのであった。
 いいさ。次がある。アニサマかどうかは知らないが、またSSAに彼女らが立つとき、今度こそは接近でありったけ想いをぶつけてやるのだ。